8月20日 “見えない空間”で距離が縮まる

以前ご紹介した、ブラインドサッカーを初めとする「暗闇体験」が、今人気を集めている。

視覚障害者のサッカーを目が見える人がプレイしてみようという、日本ブラインドサッカー協会主催のイベントには、口コミだけで毎回満員。

今年度から毎月3~4回開催されていて、7月末に東京都内の小学校で開かれたこのイベントには男女12人が参加。初対面であることで恥ずかしさはあるものの、アイマスクを着用していて見えないため、一人一人が声を出さざるを得ない状況となる。何度も繰り返すことで相手への信頼も高まり、触れる回数も増える。

「これなら人との距離を縮めるスピードが早くなる」と楽しげに語る参加者も。

もともとはブラインドサッカーの知名度を上げるためのイベントだったが、武蔵野大学は今春、新入生のオリエンテーションに導入し、「入学時にお互いがわかっているため、グループワークにスムーズに行うことができた」と効果を実感したようだ。

このようなブラインドワークを職場でのコミュニケーション力の改善に利用している例もある。一般社団法人中小企業基盤研究所は経営者向けにアイマスクで目隠しをして木製ブロックを指示された形にする作業をした。まずは、どんな形にするか全員で共通理解をし、1人ずつ行う作業では自分がどんな作業をして、どんな形になっているかを次の人に正確に伝えなければならない。

このワークを提供した久保博揮さんは難病で失明した全盲者。

暗闇ブームについて「職場や家庭で人と繋がりたいという欲求を満たされない人が多いのでは。暗闇の中だと、無条件で誰でも対等につながれる。」と解説する。

普通の人でも気軽に暗闇体験できる施設「ダイヤログ・イン・ザ・ダーク(DID)」も注目されている。集まった見知らぬ6人に視覚障害者が同行し、照度ゼロの空間を歩きながら、懐かしい家に帰ったような体験ができるというこの施設は、東京の常設会場に加え、大阪駅前の商業ビル内にある積水ハウスのショールームにもオープンした。同社の久保新吾さんは、「家族間の会話が生まれる家造りに繋がるヒントを集めたい」と取り組んだ理由を説明する。

昔に比べ、近頃は他人に対する関心が希薄になってきていると感じる人も多いのでは。暗闇を知ることで、思いやりの気持ちを見直してみてはいかがでしょうか。

(日本経済新聞 8月20日)

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