2月15日 文楽に励まされ、病気と闘う

今年初め、大阪・日本橋の国立文楽劇場で文楽初春公演が開かれた。
幕開けの演目で浄瑠璃を語るのは、88歳の人間国宝、竹本住大夫さん。軽い脳梗塞で入院した後、療養とリハビリを経ての復帰公演となるが、高い声が良く伸びて快調だ。
住大夫さんにとって8ヶ月ぶりのこの公演に、東京から駆けつけたのは、日経新聞編集委員の中沢氏。

8年程前、中沢氏が文楽に出会った48歳ちょうどそのとき、網膜色素変性症を患っていることがわかったという。
網膜色素変性症…眼のフィルムの役割をする網膜の機能が少しづつ低下していく病気。4千人に1人の難病といわれている。

初めは自覚症状がなく舞台も良く見えたが、人形の細かい動きが見えにくくなり、今では最前列をとるようになった。現在56歳の中沢氏の視野は健常者の3分の1、視力は裸眼で0.1を下回る。「読む・見る」から「聞く」に趣味が変わりつつあり、名人の浄瑠璃はCDで楽しむ。住大夫さんの口癖である「文楽は聴くもんだ」がわかりつつあるという。

そんな住大夫さんの楽屋では、若い太夫への怒声が響く。米寿とは思えないほどの迫力だ。眼の病気で消極的になりがちな中沢氏は、そんな住大夫さんの気力に励まされ、

「両目を開いて、前向きに」と明るく今を生きようとしている。

 (日本経済新聞 2月2日)

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