10月1日 物語つなぐ 声の白杖

視覚障害者に映画を楽しんでもらうため「声の白杖」を提供する活動がある。瑞穂区のボランティア団体「視覚障碍者の情報環境を考える会 ボイス・ケイン」が取り組む「シーン・ボイスガイド」。移り変わるシーンを会員がつぶさに伝え、理解を助けている。

6月下旬、天白区のビルの一室で映画「大名倒産」が上映されていた。越後のサケ売り小四郎が藩主となって、貧しい藩を救うために奔走する内容だ。席に座っていたのは10人。皆、視覚障害がある。スクリーンにはサケのうろこを包丁で黙々とこそぐ男と見守る男の子が映り、「シャー、シャー」という音が流れた。

音だけでは何が起こっているか分からないのでガイドを務める会員がすかさずシーンの説明を加えていった。

視覚障害者の加藤秀一さん(63)は『視覚障害者にとって一番やっかいなのは、音の空白シーンで物語のつながりが絶たれてしまうこと。今回はガイドのおかげで大変楽しめた』と満足げな表情を見せた。

映画は約2時間。ガイドが読み上げた台本は作り上げるのに3ヶ月かかり、130ページを超える。視覚障害者が音声から理解できる部分は説明を省き、分かりやすく簡潔な言い回しにする。

代表で元ラジオDJの岡本典子さん(83)は「大切なのは言葉選び。すっとイメージできるようにしています」と説明する。例えばトンネルの中を自転車が走るシーンでは「『だんだん明るくなってきました。もうすぐ出口です』と伝えると一度も光を感じたことのない人はピンとこない。だから『ペダルをこぐ音が早くなります。もうすぐ出口です』と言うの」

会員は現在46人で、名古屋、日進、春日井の各市を拠点に活動。岡本さんが講師を務めるガイド養成講座は500人以上が受講した。「視覚障害者と同じ立場になって、伝わる言葉を一生懸命考えると障害への理解も深まる」と岡本さん。「その経験は日常生活で視覚障害者と会った時に生きるはず」と話す。

(中日新聞 2024年9月24日)

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