9月9日 心のバリアフリー パリで見つけた

福岡市在住の松木沙智子さん(44)は、先天性の「網膜色素変性症」という視野が徐々に狭くなる難病で、現在は視野の中心だけが見えるが暗い場所はほとんど見えず、白杖が欠かせない。今回、パリ五輪の大会ボランティアとして選手村などで日本選手団のサポートを担う。

パリを歩いて気づいたのが、バリアフリーの遅れだ。日本では、「点字ブロックをたどって行けないところはない。」サポート無しでも外出に困ることがないが、パリは「点字ブロックが少ない。横断歩道の手前も、どこで止まればいいのか分かりづらい」という。パリの点字ブロックは黒や灰色など暗めの色が多く、道路に溶け込んで見えづらい。

駅での差を感じるのはホームドアだ。日本の都市部では設置が進むが、パリでは未整備の駅が多く車いすに対応した地下鉄の駅は全体の1割にとどまる。

ただ、松本さんは日本にはない「ソフト面のバリアフリー」を日々痛感している。横断歩道で待っていたり、駅で迷っていたりすると必ず誰かが声をかけてくれる。『心のバリアフリー』を感じる場面が圧倒的に多いという。

アール医療 専門職大学の徳田克己教授(バリアフリー論)は、日本は物的な面でのバリアフリーが相当進んでいるが、フランスでは展示ブロックを景観に配慮しながら必要最小限に設置するなど『障害者支援の文化が異なる』という。欧米では、学校などで障害者への声のかけ方を学ぶ。日本では、道徳の授業で『障害者も一生懸命生きている』といった精神論が中心であり、その差が表れていると指摘する。

福祉の街づくりに詳しい東洋大の高橋儀平名誉教授は、東京パラリンピックを契機にハード面のバリアフリー化は大きく進んだが、日本人の意識面は追いついておらず、ちぐはぐなまま慌てて『心のバリアフリー』と言っている状況。その上で、『余計な厄介ごと』に関わらず、見て見ぬふりをするといった風潮が強まっているようにも感じると危惧する。

(朝日新聞 2024年9月4日)

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