2月18日 点字ブロック

点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)は、ある発明家によって日本で生まれた。

点字ブロックを考案した三宅清一さんは、交差点で白い杖を持った視覚障害者が、車道を横断する際に横を車が勢いよく走り去ったのを見かけて、「盲人の安全歩行」のための補助具を考えた。

そこで考案されたのが、コンクリートブロックの表面に凹凸をつけ、注意を喚起することだった。突起はどんな形で、何個つけるのが適切かなど、試行錯誤を重ね、最終的に7列×7列で計49個の半球状突起をつけた形に行き着いた。その見た目が点字に似ていたことから、「点字ブロック」と名付けられた。

点字ブロックは「視覚障害者にとって、安全安心に道路を歩くためのみちしるべ」であり、我々の命を守ってくれる生命線」である。点字ブロックは、全盲の障害者だけではなく、見えにくさに不自由を感じる人たちも多く使う。そのため、「彼らがたどれるように目立つ黄色であることが重要」だか、新しい建物などの場合、デザインに配慮して黄色を避け、床材と同系色のものが選ばれることがある。その結果、わからずに転んだりする人もいるという。

点字ブロックは今も進化を続けている。点字ブロックに丸や直角三角形のマーキングを行い、それをスマホのアプリで読み取ることで、現在位置や周辺の施設などの音声情報を提供する「コード化点字ブロック」の敷設を進めている。

(朝日新聞 2025年2月8日)

2月14日 目の難病に希望の「光」

慶応大学と名古屋工業大学などの研究チームは13日、光を当てることによって狙った神経細胞の活動を操作する「光遺伝学」という技術を使い、目の難病で失われた視覚を再生する遺伝子治療薬の臨床試験(治験)を始めたと発表した。6日に慶大病院で1例目の患者に投与した。光遺伝学の臨床応用は国内で初めてという。

治療薬は高い感度で光に反応するタンパク質「キメラロドプシン」をつくる遺伝子が入っている。

治験の対象は、「網膜色素変性症」。視野が徐々に狭まって視力が低下し、最終的には失明する場合もある。網膜をつくる複数層の神経細胞のうち、最も外側での光のセンサーの役割を果たす視細胞の機能が失われるのが原因。国内に約3万人の患者がいるとされる。

今回は失明状態の患者に投与した。1カ月たつと視細胞の内側に残っている神経細胞でタンパク質がつくられ、視細胞の代わりに光を検知することが期待される。今後、有効性と安全性を確認していく。治療法のない病気なので期待が高い。

2025.2.14中日新聞

2月14日 霊長類 危険察知で視覚発達か

ヘビが怖いのは、うろこのせいなんです。

人間やサルなどの霊長類は、ヘビのうろこに脅威を感じ、いち早く察知しているという研究結果を名古屋大学大学院の川合伸幸教授が発表した。

川合教授によると、ヘビを見たことのないサルや人間の幼児は、ヘビの写真を他の動物の写真よりも早く見つけることがこれまでの実験などでわかっていた。しかし、ヘビのどのような特徴に反応するのかは解明されておらず、うろこのほか、足のない細長い体や体の色などが要因として考えられていた。川合教授はうろこに着目し、本物のヘビを見たことのないニホンザル3匹を対象に実験。9枚の白黒写真から一枚だけ別の動物を選ばせた。8枚のイモリから1枚のヘビを選ぶ場合と、8枚のヘビから1枚のイモリを選ぶ場合を比べると8枚のイモリから1枚のヘビを選ぶ方が3匹とも見つける時間が早くなることがわかった。その差は全体の傾向としてわずか0.04~0.05秒程度だったが、ヘビ相手では「生死を分ける時間」になるという。さらに、イモリの体にヘビのうろこの画像を合成した白黒写真を使って同じ実験を実施。見つける早さを比べると、2匹はヘビを選んだ時間と同じで、1匹はそれよりも早くヘビのうろこをつけたイモリを見つけた。

川合教授は「ヘビの独特の動きや細長い形ではなく、うろこに対して敏感に反応していることが分かった」と分析。

 

「霊長類はいち早くヘビが察知できるよう、視覚を進化させてきたと考えられる」とし「野生の猿による農作物被害の防止に、うろこが役立てられるかもしれない」と期待を込める。

(中日新聞 2025年2月5日)

 

2月5日 「瞽女」心打たれ唄い継ぐ

かつて、盲目の女性旅芸人が三味線を片手に全国を唄い歩く「瞽女」の文化があった。

担い手は減り続け、最後の一人とされる小林ハルさんが亡くなって20年。

独特の文化を受け継ごうと、やはり全盲の広沢里枝子さんが各地で唄を披露している。

「瞽女」が活躍したのは、福祉制度が十分に確立していない時代。

「瞽女」は目の見える「手引き」の女性によって2、3人で娯楽の少ない農村漁村を巡り唄(長い歌で30分以上あり発生も独特)を披露して金や米といった生活の糧得た。

女性の視覚障害者が自立するには限られた選択肢しかなく想像できないくらい過酷だった。

ただ、今も社会に出るのは簡単なことではなく、広沢さん自身も目が見えないことを理由に就職を断られたり女性の障害者は重複の差別を受け、抑圧や不条理は今もある。

それでも、社会全体や当事者、みんなで少しずつ切り開いて楽しい唄はとことん楽しく、悲しい唄はとことん悲しく。生きるために受け継いだ唄を通して「瞽女」の生き方を伝えられたと前を向く。

(中日新聞 2025年2月3日)

1月27日 見えない私から感謝の手料理を

60歳の時に全盲になった豊明市在住の村瀬典世さん(79)が、「ブラインドクッキング」と名付けた料理会を自宅で開いている。自身で米を炊き、包丁を使って巧みに作る手料理は好評で、目が見えなくなっても前向きに生きる村瀬さんの姿に、周囲は明るく励まされている。

村瀬さんは会社員だった60歳の時に眼底出血などにより全盲になった。「自暴自棄になって引きこもった。家族にいら立ちをぶつけてしまっていた」と振り返る。2年ほど経った後、見かねた知人に「そんなことではダメだ。周囲に感謝して明るく生きなくては」と諭された。

「後ろ向きでいても仕方ない。できることは自分しなくては」と気持ちを入れ替え、ブラインドゴルフに挑戦し、携帯電話やパソコンの音声で知らせてくれるソフトを使い、メールのやりとりも始めた。

そして2017年、お世話になっていた点字やガイドボランティアへの感謝を伝えようと始めたのが、ブラインドクッキングだった。

独学で料理の勉強をし、調味料は感触で種類が分かるようにしたり、ご飯を炊く際の水の量は指で確認するなど、手探りで繰り返すうちに、包丁の扱いも慣れた。

今回の料理会では、目が見えていないことを示すため、アイマスクを着用し、自身の立ち位置や調理器具の場所などはボランティアに教えてもらいながら調理を進めた。

村瀬さんは「料理会はみなさんへの感謝を示す場。今後も続けていきたい」と笑顔に。視覚障害者のガイドボランティアを務める伊藤裕美さんは「自分はお手伝い程度で、回を重ねるごとにおいしくなり、楽しく味わっている。いつも前向きで明るい村瀬さんに、こちらが元気をもらっている」と話した。

(中日新聞 2025年1月20日)

11月26日 見えぬあなたへ歌を

歌声よ、届けー。地震と豪雨に見舞われた石川県の能登半島を支援するコンサートが今月上旬、愛知県岡崎市で開かれた。企画したのは、数年前から緑内障でほとんど目が見えなくなった同市百々町の榊原みどりさん(85)。榊原さんの目に異変が起きたのは10年前で、看板や新聞の文字がぼやけ、月が二重に見えるようになった。病院での診断は緑内障。2、3年前からは両目ともほとんど見えなくなる中、今年の元日を迎えた。

被災した能登町の40年来の知人のもとへ、目のせいで駆け付けられないもどかしさを抱えながらも、緑内障となってから知り合った仲間や、思いに賛同した地元の健常者や障害者、岡崎城西高の生徒らの助けでコンサートを実現。「少しでも能登のためになれば」と願った。

2024年11月24日 中日新聞より

10月21日 ガイドメイクで「自身!」

視覚に障害があっても気軽に化粧を楽しめる「ガイドメイク」が、少しずつ広まっている。資生堂ジャパンが開発し、今秋から全国の特別支援学校などと連携してセミナーを開催。参加者の中には、来春に大学進学や就職を控えた生徒も多く、化粧を通じて「自信をもって社会に出たい」との気持ちを後押ししている。

 

9月上旬、愛知県の岡崎盲学校。高等部の生徒たちがアイシャドーを指先に付け、もう片方の手で眉の位置を確かめながら、色をのせていった。周りにいた講師から「似合う」「かわいい」と声をかけられると、ほおをゆるませていた。

 

ともに3年生で、化粧は初挑戦という赤松春佳さん(17)は「うまくできるかなと思っていたけど、こんなにきれいになるんだ」と笑顔。卒業後は就職予定という石野加恋さん(17)は「身だしなみとして必要だと思うので、家でも練習してうまくなりたい」と声を弾ませた。

ガイドメイクは、目が不自由な人が自身の手指などを頼りに、スキンケアからメーキャップまでを自分で施す化粧法。資生堂ジャパンは、当事者の困りごとに耳を傾けながら、化粧品の選び方や使い方、手順の伝え方などを研究。2019年から、視覚障害団体などと連携し、中高年を対象にしたセミナーを本格スタートした。今回は、10月10日の「目の愛護デー」に合わせて、新たに社会へ巣立つ高校生たちを応援しようと企画。来年1月までに全国13校で開催する計画だ。

 

視覚に障害がある人が化粧をするときに特に心配しているのが、「ファンデーションの色ムラ」や「眉や唇の輪郭からはみ出ること」という。そのためガイドメイクでは、ファンデーションを付ける際は、スポンジではなく毛足が長いパフの使用を勧める。「ムラができるのを防ぎ、より自然に仕上がる」と担当者。眉は、アイブロウを持つ手とは逆の人さし指を眉の上のラインに寝かせるように沿わせ、眉頭から眉尻にかけて少しずつ描き足す。パウダータイプを使うことで失敗しにくくなる。唇も同様に、利き手とは逆の人さし指を「ガイド」にし、口紅を滑らすように塗る。

セミナーでは、化粧水や乳液などの適切な使用量をイメージできるよう、手で触って分かるスケールを用いて確認。男子生徒はスキンケアのほか、ボディケアやヘアケアも教わった。

担当者は「ご自身ではみえなくても、周りから『きれいですね』『似合っているね』と声をかけることで、より自信を持って外出したり、誰かに会おうと思えたりする。今後の化粧の力で、皆さんの活躍を後押ししたい」と話している。

10月8日 眼病予防 小児期カギ

文部科学省の学校保健統計調査(2022年度)によると、裸眼視力1.0未満の小学生は37.88%、中学生は61.23%と、過去最多になった。

大府市では22年度から「子どもの近視予防プロジェクト」に取り組んでいる。「小児の近視予防は、将来の重い目の病気を防ぐことになる」と、その意義を強調する。

近視は光が網膜の前で焦点を結び、遠くのものにピントが合わない状態。目の奥行き「眼軸」が長くなることが主な原因だ。眼球が前後に伸びると、網膜の組織が薄く、もろくなり、網膜が破れてはがれる網膜剥離になりやすくなる。剥離が周辺部で起きれば視野欠損、網膜の中心で物を見るのに重要な部分「黄斑」で起きると大幅な視力の低下をきたす。視野が欠ける緑内障は、光を網膜から脳に伝える神経節細胞が痩せていく病気。眼球内を満たす液体の圧力「眼圧」の高まりが原因として知られているが、近視が進んで網膜が引き伸ばされることも症状が進む要因に。黄斑にもろい血管が新たにでき、そこから水漏れが起きてむくみ、視細胞が働かなくなるなどの「近視性黄斑症」にもなりやすくなる。

近視の度合いを示すマイナスの値(D=ディオプトリ)が「1」大きくなるごとに、網膜剥離が30%、緑内障が21%、近視性黄斑症が58%と、それぞれなる確率が上がる。マイナス6D以上の強度近視では近視でない人に比べ、網膜剥離に22倍、緑内障に14倍、近視性黄斑症に41倍なりやすくなる。早くに近視になった人ほど、強度近視になりやすいといい、まさに子どもの頃の近視予防が、目の健康を守る。

近視は、一般的に近くを見る作業を続けることがよくないとされ、屋外で1日2時間以上活動すればリスクが減ると報告されている。ただ、進行するメカニズムは分からないことが多い。

2024.10/8 中日新聞

→「オルソケラトロジー」についてはこちらをご覧ください

「マイオピン」についてはこちらをご覧ください

10月1日 物語つなぐ 声の白杖

視覚障害者に映画を楽しんでもらうため「声の白杖」を提供する活動がある。瑞穂区のボランティア団体「視覚障碍者の情報環境を考える会 ボイス・ケイン」が取り組む「シーン・ボイスガイド」。移り変わるシーンを会員がつぶさに伝え、理解を助けている。

6月下旬、天白区のビルの一室で映画「大名倒産」が上映されていた。越後のサケ売り小四郎が藩主となって、貧しい藩を救うために奔走する内容だ。席に座っていたのは10人。皆、視覚障害がある。スクリーンにはサケのうろこを包丁で黙々とこそぐ男と見守る男の子が映り、「シャー、シャー」という音が流れた。

音だけでは何が起こっているか分からないのでガイドを務める会員がすかさずシーンの説明を加えていった。

視覚障害者の加藤秀一さん(63)は『視覚障害者にとって一番やっかいなのは、音の空白シーンで物語のつながりが絶たれてしまうこと。今回はガイドのおかげで大変楽しめた』と満足げな表情を見せた。

映画は約2時間。ガイドが読み上げた台本は作り上げるのに3ヶ月かかり、130ページを超える。視覚障害者が音声から理解できる部分は説明を省き、分かりやすく簡潔な言い回しにする。

代表で元ラジオDJの岡本典子さん(83)は「大切なのは言葉選び。すっとイメージできるようにしています」と説明する。例えばトンネルの中を自転車が走るシーンでは「『だんだん明るくなってきました。もうすぐ出口です』と伝えると一度も光を感じたことのない人はピンとこない。だから『ペダルをこぐ音が早くなります。もうすぐ出口です』と言うの」

会員は現在46人で、名古屋、日進、春日井の各市を拠点に活動。岡本さんが講師を務めるガイド養成講座は500人以上が受講した。「視覚障害者と同じ立場になって、伝わる言葉を一生懸命考えると障害への理解も深まる」と岡本さん。「その経験は日常生活で視覚障害者と会った時に生きるはず」と話す。

(中日新聞 2024年9月24日)

9月9日 心のバリアフリー パリで見つけた

福岡市在住の松木沙智子さん(44)は、先天性の「網膜色素変性症」という視野が徐々に狭くなる難病で、現在は視野の中心だけが見えるが暗い場所はほとんど見えず、白杖が欠かせない。今回、パリ五輪の大会ボランティアとして選手村などで日本選手団のサポートを担う。

パリを歩いて気づいたのが、バリアフリーの遅れだ。日本では、「点字ブロックをたどって行けないところはない。」サポート無しでも外出に困ることがないが、パリは「点字ブロックが少ない。横断歩道の手前も、どこで止まればいいのか分かりづらい」という。パリの点字ブロックは黒や灰色など暗めの色が多く、道路に溶け込んで見えづらい。

駅での差を感じるのはホームドアだ。日本の都市部では設置が進むが、パリでは未整備の駅が多く車いすに対応した地下鉄の駅は全体の1割にとどまる。

ただ、松本さんは日本にはない「ソフト面のバリアフリー」を日々痛感している。横断歩道で待っていたり、駅で迷っていたりすると必ず誰かが声をかけてくれる。『心のバリアフリー』を感じる場面が圧倒的に多いという。

アール医療 専門職大学の徳田克己教授(バリアフリー論)は、日本は物的な面でのバリアフリーが相当進んでいるが、フランスでは展示ブロックを景観に配慮しながら必要最小限に設置するなど『障害者支援の文化が異なる』という。欧米では、学校などで障害者への声のかけ方を学ぶ。日本では、道徳の授業で『障害者も一生懸命生きている』といった精神論が中心であり、その差が表れていると指摘する。

福祉の街づくりに詳しい東洋大の高橋儀平名誉教授は、東京パラリンピックを契機にハード面のバリアフリー化は大きく進んだが、日本人の意識面は追いついておらず、ちぐはぐなまま慌てて『心のバリアフリー』と言っている状況。その上で、『余計な厄介ごと』に関わらず、見て見ぬふりをするといった風潮が強まっているようにも感じると危惧する。

(朝日新聞 2024年9月4日)

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