2020.10.6 大手まんぢゅうと緑内障
デパ地下には、地方の銘菓を集めたコーナーがあり、現地へ行かなくても手に入れることができます。
先日、ふらっと立ち寄ると、目につくところに『大手まんぢゅう』が。
よく行くコーナーなのに初めて。
備前岡山の老舗のお饅頭です。
懐かしい~
『大手まんぢゅう』はYさんを思い出させます。
(今でも条件反射で高校時代の remind A of B 構文が出てしまいます…)
Yさんは、院長(私)が研修医1年目で担当した緑内障の患者さんです。
もちろん主治医は上にいて、その下に副主治医がいて、その下が研修医という構図です。
当然、主治医がベテランで、以下…となります。
当時、所属眼科は、緑内障で全国的に知られており(今も)、各地から患者さんが診察に来られていました。
Yさんも、その一人。
緑内障を長く患い、かなり進行しており、岡山から治療法(手術)を求めて来院されました。
70代の元美術教師。
絵をたくさん描いておられ受賞歴も何度か。
研修医は、担当するといっても、患者さんから勉強させてもらうことがほとんどです。
既往歴や現病歴、今の診断・治療法に至るまで、話を聞きます。
先輩医師のカルテ所見を見ながら、自分でもきちんとした所見がとれるよう、患者さんの目を借りて観察させてもらいます。
ベテランが、さっと診られる所見・病気を、研修医は見つけられないことがほとんどです。
長く診察に時間をかけているから、正確な所見・診断・治療ができるかと言われれば、そうではありません。
患者さんの協力、自身の研鑽・経験があってこそ、診療能力をアップし、やがて時間も短くなります。
診療のポイントが明確にわからない研修医の身では、世間話が途方もなく広がるものの、実は肝心なところが抜けていたりします。
朝の回診前や昼休み、夜など空いた時、土日ももちろん患者さんを訪ね、話をし、診察(の練習)をする研修医です。
そういうわけで、研修医は、患者さんと長い時間を過ごすことになります。
『先生、お腹空いてるでしょうから、どうぞ』と病室で差し出されたのが『大手まんぢゅう』
直径3センチくらいの、薄皮に包まれた漉し餡が上品なお饅頭です。
仕事中なので、慌てて二口で食べ終えましたが、小腹が満たされ元気が出ました。
Yさんは、予定通り、手術となりました。
その後、何回か通院されましたが、視力・視野とも、非常に厳しい状態となりました。
開業の報告をしたところ、贈られたのが、待合室に飾ってある薔薇の絵です。
『もう自分では描けないし、見えないから、先生の元においてもらえば光栄です』
鬼籍に入られてしまいましたが、待合室の絵は、院長の緑内障の原点の一つでもあります。
某大学某科の教授(院長と同年代)と話していた時。
今は主治医が3人制なのだそうです。
経験年数が違っていても、全員が主治医で、連帯責任制とのこと。
昔は、担当は3人でしたが、明らかに立場が違うので、患者さんもそれを踏まえて、話す内容を変えていたのだと思います。
その分、研修医の時に、世間話から必要なことを聞き出す術や、本筋に戻す術、患者さんとの距離の取り方などを学べたのだと思います。
医師の労働時間も大事なことですが、研修医の時にしか出来ないこともたくさんあった…とオバサン院長は思います。
お茶を入れ、黒文字を添えて大手まんぢゅう。
上品なお菓子をゆっくり味わえるようになった院長。
研修医からのドタバタも遠い過去のことです。
本来なら、今頃は、緑内障学会で九州に出張中の院長。
大手まんぢゅうを傍らに、ZOOMでライブ講演視聴。
WEBだからこそ許されます。