2019.8.20 虫が飛ぶ
日々の診療の中で、『虫が飛んで見える』『糸くずのようなものが見える』と訴えて来院される患者さんがあります。
基本的な検査をした後は、瞳を検査薬で大きくして精密眼底検査を勧めます。
この場合、帰りは、車を運転して帰ることはできません(瞳が開いて眩しくなり、ピントが合わないので)。
精密検査をした後、ほとんどの患者さんには『飛蚊症(ひぶんしょう)ですね。心配ないですよ』とお話しすることが出来ます。
『飛蚊症』とは、眼球内に糸くずや虫(蚊)のような黒い影が飛んでいるように見えることです。
眼球内には、硝子体(しょうしたい)というゼリー状の物質がつまっています。
若い時は、ゲル状で網膜にぴったりくっついています(ゼリーでしっかり充填されている眼球)。
加齢に伴い、ゼリーの中でも、水が多いところ、ゲルが強いところに分かれます。
その境界に光が入ると、光の影が、黒いものとして目に映るのです。
硝子体の水分が増えて、網膜の後方から剥がれることを『後部硝子体剥離』と言い、50代では25%、80代では90%の人に起こり、飛蚊症の原因となります。
網膜に問題がなければ、必要以上に心配する必要はありません。
『飛蚊症は治りますか?』と聞かれれば、『問題のない飛蚊症は、無くなることはないです(濁りだから)』
もちろん、濁りが光の筋道に入らなければ、目に映らないので、治ったような気になることはありますが。
残念ながら、病気でないものに治療法はありません。
飛蚊症に慣れるしか…です。
ただし、網膜に弱いところが見つかった場合は、定期的な検査をお勧めします。
場合によっては、網膜裂孔(網膜に穴が開く)、網膜剥離(網膜が剥がれる)につながるおそれもあるからです。
検査の結果、心配がないことがほとんどですが、あくまで精密検査をした結果。
精密検査をしないで、『大丈夫ですよ~』という無責任な発言は慎むのが眼科医です。
さて、先日、黒い水玉が見えると、来院されたAさん。
1週間前
から、黒い水玉が見えるけれど、様子を見ていたとのこと。
どんどん黒い水玉が増えるとともに、視力が落ちてきた…とのこと。
下方も見にくいです…と。
予想通り、『網膜剥離』でした。
しかも、上方から網膜が剥がれており、中心にかかっています。
緊急性マックス!
結果についてお伝えし…
『即、病院へ紹介します。緊急手術になります』
『そんな大変なことになっていたんですか?』
『そうなんです。乗ってきた車は、そのままにして、出来るだけ体と頭を動かさないように、タクシーで向かってください』
その日、緊急手術になったAさん。
Aさんの車は、しばらく当院駐車場にそっと置かれたままでした。
術式から、術後はベッドの上でうつむき姿勢(治療のため)を強いられているAさんを想像する院長でした。
幸い、Aさんの術後は良好。
視力も回復しました。
『助かりました~』
飛蚊症の原因は、病気ではないものがほとんどです。
しかし、網膜剥離や硝子体出血・炎症などの場合も、稀にあります。
気になれば、検査を受けてくださいね。