2020.5.19 ひょっとこ顔に!?
ある晩、右眼が『すーすー』
角膜に傷でも付いたかな?
最近は、飛沫感染予防にコンタクトでなく眼鏡にしているけど…
角膜保護剤の点眼をしておこう(眼科医ならでは自己診断治療)。
翌日も『すーすー』が続きます。
まぁ、若い人より回復力は遅いから…
と、その日の夕食時、唇の内側右寄りを2回噛んでしまいました。
『加齢で口の中の肉がたるんできた?』
翌朝、相変わらず右目は『すーすー』
洗面所でうがいをしようと、水を含んだら唇の右側から漏れます。
食後のコーヒーも気を付けて飲まないと漏れてしまいます。
唇の裏を確認し、腫れが原因?
診療後、長年連れ添うスタッフから『先生、右目、腫れてません?』
マスク姿なのに、よく気が付くわね~。
ものもらいや結膜炎はありません。
細隙灯顕微鏡で写真を撮ってもらうと、角膜に横方向の細かい傷が。
仕事終了後、鏡の前で自分の顔をしっかり観察。
このところ、マスク姿を良いことに、目元だけの簡単メイクだったので、顔をじっくり観察することも少なくなっていました。
もしや…と思い『あ・い・う・え・お』と大きく鏡の前で声に出して言ってみます。
やはり…
顔の動きが明らかに左右違います。
右の口角が上がらないので、『う・お』は顕著に左右差が。
右目は腫れているのではなく。右眉毛が上がらない(下がっている)ので相対的に右瞼も下がり腫れぼったく見えます。
両眼をつむってみると、右眼はしっかり閉じず隙間が出来ます。
この隙間に一致しての角膜の傷でした。
いずれの症状も、顔面神経支配の顔面の筋肉が上手く動かないからです。
『大変!顔面神経麻痺になっちゃた!』
『どれ、どれ~』と家人。
顔面神経麻痺の患者さんを診断するときのルーティンを妻(私)にもして、『確かに、顔面神経麻痺だね~』
『耳痛くない?』発疹はなし。
『ヘルペスは出ていないみたいだね。もう一度、あいうえお、やってみて』
『あ・い・う・え・お』
『ホントに、ひょっとこ顔だね~』
同業者ならではの言葉に、納得。
『ひょっとこ』は火吹き竹で火を吹く顔が、顔面神経麻痺のようだと言われています。
声を聞きつけて、息子が。
『すごい!実物、初めて見たわ!もう一回やって。すげぇ、すげぇ。もう一回!』
『あ・い・う・え・お』
赤ちゃんを喜ばすように、何回もやってみせる愚母(私)。
『一生忘れんわ』と、息子。
顔面神経は脳から発し、側頭骨の中の顔面神経管を通り、顔面に分布しています。
多いのは顔面神経管の炎症(ヘルペス感染のほか、疲労・ストレスなど)による、『ベル麻痺』と言われるものです。
他に、骨折などの外傷・脳腫瘍や耳下腺腫瘍が原因となることもあります。
幸い頭蓋内は異常なし。
ヘルペスの所見もなく、ステロイドと神経賦活剤の内服となりました。
『日本酒飲みますか?』と受診先の先生。
繊細な味を舌先で味わう日本酒を嗜む場合、舌先も顔面神経支配なので、違いに気づくそうです。
『3か月で8割は治癒しますから』
常識的なことを言われても、『ということは、2割は治らない?このままだったら、どうしよう?』と、急に患者サイドでまだ起こりえないことを考えてしまします。
顔面神経麻痺でしっかり閉瞼できず、角膜障害のひどい患者さんを多く見てきました。
『どうしよう?』
しっかり服薬。
激しい運動を休んで、ゆっくりとした生活を。
鏡の前で『あ・い・う・え・お』リピート。
1週間単位で徐々に改善。
マスクのお陰で人には気付かれず、約1か月で完治。
完治したからこそですが、良い体験でした。
今も毎日『あ・い・う・え・お』確認の院長です。