2021.1.19 ぬくもりは伝わる
とても寒くて雪が降りそうな午後、往診に向かいました。
本日は70代後半Aさん(男性)宅。
半身まひで通院困難になったため、緑内障継続治療の依頼です。
Aさんとは、1年ほどのお付き合い?があるのですが、寡黙な方なので、ほとんど私生活は謎です。
部屋の調度品や、机の本から、以前は会社の経営者だったよう(推測)。
『こんにちは』と声をかけて、スタッフと二人で部屋に入ります。
『あれ?先月より少し痩せられた?』と思いつつ、いつも通りの手順で診察。
『目、お変わりないですよ。眼圧も落ち着いていますよ』
『そう。良かった。今日は、先生の指、冷たかったね~』
『え!?あっ!?すみません、失礼しました!』
学生時代の病院実習の時、教わったこと。
患者さんを診察(触診)するときは、手を温めておくように。
この一言は、医師になってからもずっと守っていることです。
眼科医なので、患者さんの体(お腹や胸・背中など)に触れることはないですが、眼(まぶた)は毎回。
診察の前には、手指の曲げ伸ばしやこすり合わせをして、指先の体温を上げておくのは習慣になっています。
その日も、指先をこすり合わせていたはずなのですが…
『今日は、本当に寒いんだね。先生の指から感じたよ』とAさん。
それから、癌で数年前に亡くなった奥様のこと、静かだったお正月、1週間前に吐血してずっと絶食だったこと…など、ぽつりぽつりと話してくださいました。
患者さんの病気に関連することは、尋ねますが、プライベートのことや世間話的なことは、患者さんからお話しされれば聞きます。
Aさんとの距離がぐっと近づいたように思いました。
医師としての手指は、診療のためだけでなく、患者さんと心を通じさせる大事なツールであることを再認識。
ぬくもりは伝わります。
通じます。
『おねえちゃん、診察代は、そこの机にあるから』
院長と同年代の同行Bスタッフのことを、いつも『おねえちゃん』と呼ぶA さん。
Bスタッフも手慣れた様子で『はい、確認しますね~』
外はますます冷え込んできました。
『なんか今日、良かったですね~』とBスタッフ。
心にはぬくもりをもらい、帰途につきました。