2019.7.30 見えるのに見えない
小3のAちゃんが、学校からの受診のお勧め用紙を持って来院しました。
視力検査の結果、両眼D、D。
Dは0.4指標が見えないということです。
半年前に当院受診時は、右1.2左1.2でした。
もう一度、視力検査をしてみても、右0.1左0.1です。
矯正眼鏡を入れても、視力は上がりません。
念のため、点眼薬を使って、隠れている遠視がないかの確認もしましたが、遠視・近視・乱視とも問題ありませんでした。
眼球自体の問題はありません。
こういう場合『心因性視力障害』を疑います。
目の心身症の一つです。
ストレスが原因で、目に何らかの症状が出ることがあるのです。
視力障害として現れることが多いですが、色覚異常(色の見え方が違う)や眼瞼痙攣、チックとして現れることもあります。
眼科医ですが、念入りにヒアリングをします。
家族構成、学校での様子・友人関係、習い事などなど。
保護者と院長がお話をし、患者さんの話はスタッフが聞くことが多いです。
大人にとっては些細なことでも、本人にとっては重大なことであることが多々あります。
家庭内の問題では、『お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから』と、我慢することが多い、上の子の患者さんが多いように思います。
学校では、クラス替えなどで、友人と離れた、新しい友人が出来ない、授業についていけないからつまらない…など。
習い事でびっしり放課後のスケジュールが埋まっていますが、本人は乗り気ではないものの、親の期待に応えようと頑張っている場合。
なぜかピアノの時だけ楽譜が読めなくなる…など。
また『メガネ願望』から、視力障害を起こすこともあります。
クラスの子がメガネをかけ始めた…兄姉がメガネをかけ始めた…など。
メガネ願望の視力障害に、トリック(眼科医のさじ加減)を使ったメガネを処方すると…
次回、出来たメガネでの視力はバッチリ!です。
自分好みの素敵なメガネを、褒めてあげると、とても嬉しそうです。
『どこも悪くないのに~何で~』と決して本人に言ってはいけません。
心因性視力障害では、日常生活は見えるから生活に危険は及ばないのですが、いざという時(例えば視力検査)には、見えないのです。
保護者と面談をして、ストレスの原因の解決に向けての対応策や、時には点眼を使いスキンシップを図ることを提案します。
低学年のうちなら、『ぎゅ~』と抱きしめるのも効果的です。
たくさんの見えない(視力の出ない)小さな患者さんに向き合ってきました。
ワーキングマザーとして、決して出来た母ではありません(院長)が、自戒も込めてお話ししています。
子供が可愛くない親なんていませんが、良かれと思ってしていることや、無意識な行動や発言が、子供を傷つけていることも少なくありません。
親も精いっぱい、子供も精いっぱい。
時に、繊細な子は、心身症になってしまうこともあるのです。
親が反省することも多々ありますが、自分を認めてあげることも大事です。
特に仕事を持っていると、何か子の問題が起こったとき、『愛情不足?手間かけ不足?』と自分(親)が不安になりがちです。
後から振り返ると、子からずいぶん試練を与えられたけど、乗り切った!と思える日が来ます。(←院長自身のことです)
かかわる時間が少なくても、『大好き!』というメッセージと、子供の話を傾聴・共感することが大事です。
『だから、大丈夫です。必ず見えるようになりますよ』とお伝えします。
Aちゃんは、骨折でしばらく体育や課外活動ができず、疎外感を持ってしまったようです。
メガネをかけて、みんなが褒めてくれたことで視力も改善。
骨折も治り、元気に活動できるようになったら、メガネをかけることを忘れることも。
眼科医ですが、時々、精神科的アプローチをすることもあるのです。