2021.9.7 赤毛のアンと緑内障

ステイホームが続くようになって、院長の読書熱も復活。

新刊も読みますが、児童文学や古典も気になるように。

 

さて、先日書店で見つけた『赤毛のアン』

何十年かぶりに、同じ訳者(改定あり)の文庫シリーズが目に留まりました。

 

もう一度読みたい!

いつか読もうと思っても、老眼・ドライアイに加え、集中力の欠如が起こりうる現実。

読むなら、今!

 

赤毛のアンシリーズは、『赤毛のアン』から始まって『アンの思い出の日々(上・下)』まで全12巻。

今では大人買いです。

 

『赤毛のアン』

孤児院のアンは、グリン・ゲイブルス(物語の場所)の独身のマシューとマリラ(兄妹)に引き取られます。

アンは11歳、マシュー60歳、マリラは50代。

美しい自然の中で、多くの人と関わりながら成長していくアンの物語です。

アンの年齢に近かった少女(院長)は、アンを中心に物語に夢中になっていましたが、いまやマシュー・マリラと同世代。

冷静になって様々な立場で読む自分がいます。

 

 

さて、このお話の中で、マリラは、度々頭痛を起こします(以下原文抜粋)。

 

『~頭痛のせいなんだよ。

近ごろ、しょっちゅう痛むのさ、眼の奥のあたりがね。

スペンサー先生は眼鏡のことばかりやかましく言いなさるけど、いくら眼鏡を変えてもちっともよくならないんだよ。

6月の末に島へ有名な眼科医が来るから、ぜひ見てもらいなさいと先生が言いなさるんだが、私もそうしなくてはなるまいと思うのさ。

読むのも縫うのも不自由でね。~』

 

『~あの眼科医が、明日、町にみえなさるから診てもらって来いと言いなすったんだよ。~

私の目に合ったメガネをつくってもらえばありがたいことだよ。~』

 

マリラは眼科医に診てもらいます。

『~もう読書も裁縫も、眼に負担がかかることは一切やめなさいって。

泣くのもよくないんだとさ。

それで先生のおっしゃる通りの眼鏡をかければ、これ以上悪くなるのは食い止められるし、頭痛も治まるだろうって。

そうしなければ、半年のうちに目が全く見えなくなるっていうんだよ。~』

 

少女(当時の院長)は気にも留めず読み進めたのに、眼科医(院長)の今、その部分で停止、考察。

マリラは、緑内障を患っていたのではないか…

 

緑内障には隅角が広い開放隅角緑内障と狭い閉塞隅角緑内障があります。

閉塞隅角の患者さんは、何かのはずみに、隅角がより狭くなると、眼圧が上がります。

遠視の人が多いです。

うつむいて作業をすることで(特に暗いところで)、隅角がより狭くなり、眼圧が上がります。

そこそこ上がると、眼が押されるような疲れ・痛みや眼精疲労、頭痛が起こります。

ただし、姿勢によって、改善されるので、眼から由来するとはなかなか気が付きません。

また、加齢により白内障になることで、隅角が狭くなりがちです。

何かの拍子で、隅角が閉塞してしまうと、急激な眼圧上昇と激しい眼痛・頭痛を起こします。

頭の病気かも?と思っていたら、眼の病気だったという『緑内障発作』です。

 

マリラは、中等度以上の遠視で、慢性閉塞隅角緑内障だったのではないか…というのが、院長の見立てです。

頭痛・眼精疲労など、小さな眼圧上昇を繰り返した結果だったのでは。

すでに、視野欠損(自覚の有無は別として)もあったのではないでしょうか。

 

現代だったら、マリラに手術を勧めます。

 

100年以上前、作者のモンゴメリは、どんな病気を想定して描写したのでしょうか?

赤毛のアンで、眼の病気に出会うとは…

 

1巻目にして、足踏みをしてしまった院長。

全巻制覇まで、ゆっくり読み進めていこうと思います。

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2021.5.11 アイフレイル自己チェック

4月の大きな眼科学会は、ハイブリッド(現地と後日WEB配信)で行われました。

大阪なら日帰りも十分可能なので、久々に現地で聴講しようという予定でした。

通常は、新幹線を使うのですが、今回は1日だけでも話題?の近鉄特急『ひのとり』に乗りたい!

デビュー当時は、大人気で予約も取れない状況だっただけに、早めにネット予約。

時間は新幹線の倍以上かかるので、会場到着時間から逆算して乗車時刻を。

しかし、大阪を中心に新型コロナ患者の急増。

学会臨場感と『ひのとり』より、ステイホームでGW間のWEB配信を選びました。

 

と言うわけで、GWは、PC前で視聴、視聴。

予定もないGWとはいえ、気になる演目を多岐にわたり集中して聞くと、けっこう頭は疲れます。

 

今回も、人生100年時代を見据えた、眼科戦略は、それぞれの病気の分野で、研究発表されていました。

 

『アイフレイル』は、眼の不快感を単に年のせいにせず、視機能の重要性を認識し、問題の早期発見を促すことを目的とした概念です。

早期発見することで、適切な介入(治療)を可能とし、ある程度機能回復させる・進行を遅らせる・緩和させることが期待できます。

元に戻る(正常)ことは難しいけれども、悪化抑制は出来ます。

眼科医にとっては、眼科に受診してもらわないと、診断治療ができません。

 

そこで…『アイフレイル』自己チェック!です。

1.目が疲れやすくなった

2.夕方になると見えにくくなることがある

3.新聞や本を長時間見ることができなくなった

4.食事の時にテーブルを汚すことがある

5.眼鏡をかけていてもよく見えないと感じることが多くなった

6.まぶしく感じやすい

7.まばたきしないとはっきり見えないことがある

8.まっすぐの線が波打って見える

9.段差や階段で危ないと感じたことがある

10.信号や道路標識を見落としたことがある

 

眼科医であれば、上記のそれぞれに予想される病名は浮かびます。

最終的に、単純に加齢によるものの場合もありますが、それは他の病気を除外しての場合です。

どんな健康な目でも、加齢に伴う機能低下は起こります。

日常生活が制限されないよう、早期発見早期治療のお手伝いをするのが眼科医です。

眼からの情報は大きく、見えていた人が見えなくなると、自立機能の低下も引き起こします。

 

緑内障の患者さんには、定期的に視野検査もするので、受診年数が多いほど、回数が多いほど、視野進行速度が正確に出ます。

『この進行具合なら、100歳まで日常生活問題ないですよ』とお話しすると、

『そんなに生きないからいいわ~』と言いつつも、嬉しそうな顔をされる70~80代の患者さんです。

最近緑内障が見つかった90代の患者さんは、まだごく初期。

『この程度で、治療をしっかり続ければ、120歳でも大丈夫ですよ!』

『わし、そんなにまで生きるかな?』と患者さん。

『大丈夫です!120歳まで診せてくださいね』

 

慢性の病気は、元には戻りませんが、悪化しないように現状維持をすることが目標です。

治らないから治療しても仕方がない…では、ないのです。

ご心配なことはご相談を。

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2021.3.9 眼科もポリファーマシー

患者さんのお薬手帳を確認すると、薬の多いことにびっくりすることがあります。

お薬は、高齢になるほど、増える傾向にあります。

病気の種類が増えるからです。

それぞれの病気に対して、複数の種類の内服薬が処方されます。

都内の75歳以上の通院高齢者を対象に調査したところ、5種類以上の薬を処方された人は64%でした(東京都健康長寿医療センター研究所)。

眼科の患者さんでも、掌にいっぱいになるほどの量を毎回飲んでおられる方がいます。

『薬だけでお腹いっぱいになるわ~』

確かに…

 

多くの薬を併用することで、同じような薬が重複していたり、薬物間の相互作用で副作用がでたりと、身体に悪影響が出ることを『ポリファーマシー』と言います。

高齢になると、認知機能の衰えで、薬をきちんと内服できなかったり、薬の代謝分解機能の低下から、最近は多剤併用の見直しが注目されています。

医師・薬剤師・患者さんの相互理解があって、減薬が実現するのですが、減薬しても老人ホーム入居者の認知機能は維持できたとの報告もあります。

 

眼科でもっぱら処方するのは点眼薬です。

眼科でも、時に、驚くような多剤点眼薬が処方されていることがあります。

 

以前、往診を頼まれた施設入居の認知症の患者さん。

出されていた点眼薬は、抗生剤、炎症を抑えるステロイド剤、炎症を抑える非ステロイド剤、ドライアイの点眼薬2種、眼精疲労の点眼薬2種。

患者さんは、白内障の手術をした後、施設を転々とされていたようで、施設前医からの申し送りのごとく何年も同じ点眼薬を処方されていました。

当の患者さんは、自分がいつ白内障の手術を受けたかも記憶にないくらい。

スタッフは、7種類の点眼薬を、忙しい介護の合間にさしていました。

一日に何種類も何回もさすので、眼瞼は荒れ、めやにも出ていました。

同じ抗生剤を何年も使用していたので、耐性菌(抗生剤に効かない細菌)の有無を確認。

検出された細菌にターゲットを当てた別の抗生剤の点眼薬を処方し、他の点眼薬は全て中止。

すっかり治癒しました。

その後、点眼薬は使用しなくても特に問題は起きていません。

餅は餅屋、目は眼科に!

 

点眼薬をしっかり効果的にさせるのは3剤まで、と考えられています。

点眼薬と点眼薬の間は5分以上空けるのが望ましいので、2剤でも、うっかりしていると忘れてしまうことがあります。

また、種類が多くなることで、薬剤によるアレルギーを起こしたり、まぶたの荒れを起こしやすくなります。

 

緑内障の点眼薬も、進行の程度によっては、多剤併用になっていきます。

しかも、長期にわたり、点眼するので、合併症も出やすくなります。

現役世代も多いので、点眼と点眼の間をしっかり空けると、けっこうな仕事になってしまいます。

そこで、近年では、次々と合剤(2成分が1本に混入)が主流になってきました。

現在では、緑内障点眼薬の主要5成分が3本でカバーできます。

 

多剤併用は、他の病気にも当てはまります。

気になることを一度にカバーしようとすると、何種類もの点眼薬が必要になります。

優先順位をつけて、点眼薬の種類を決めるべきだと考えています。

眼科医の処方する点眼薬は、頓服みたいな何か起こった時だけの指示のものは原則ありません。

1日何回を継続してこそ効果の出るものばかりです。

 

最小の薬で最大の効果を!

最低の眼鏡(コンタクト)度で最高の視力を!

最高のコンディションで最高のパフォーマンスを!

当院のモットーです。

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2021.3.2 グリーンにライトアップ

明日はひな祭り。

クリニックの受付には、院長と同い年ながら、年を取らない美しいお雛様とお内裏様が、患者さんをお迎えしています。

 

さて、来週3月7日から13日は、2021『世界緑内障週間』です。

日本緑内障学会では、緑内障の認知と啓発に向けて、2015年から各地のランドマークをグリーンにライトアップする「ライトアップ in グリーン運動」を、世界緑内障週間に合わせて展開してきました。

当初は、公共施設や大きな病院でしたが、今年は、一般の医療機関へも参加呼びかけがありました。

緑内障学会員の当院も参加表明。

3月7日から13日は、当院の花壇の木々がグリーンにライトアップされます。

当院の花壇のライトアップは、11月後半からクリスマスバージョンを、その後オーナメントを外して2月初旬まで実施しています。

花壇の花々は年中、季節に合わせてアレンジされています。

3月のイルミネーションは、特別な1週間です。

 

ライトアップ色のグリーンは、当然、緑内障の緑に起因します。

白内障は、かなり進行すると、瞳が白っぽく見えることから『白』がつくのだろうと想像できますが、緑内障の『緑』は?

なかなか、想像がつきません。

 

遡ること、紀元前4~5世紀頃に古代ギリシャのヒポクラテスがある目の病気を「地中海の海の色のように青くなり、やがて失明状態になる」と記述しています。

これは、急性緑内障発作の症状と考えられます。

隅角が狭い人が、突然、眼圧の急上昇をきたし、角膜が膨隆・浮腫を起こします。

その目を診察するときに、透明性を失った角膜を通して暗い眼底を見るので、目は青緑に見えたのではないかと考えられています。

西洋人の青い瞳がゆえの記述だと思われますが、描写はきれいだけれど、とっても怖い病気です。

 

急性緑内障発作は、現代でも発症します。

元々隅角(ぐうかく)が狭い人の隅角が閉塞することにより、急激に眼圧が上昇、眼痛・頭痛もひどく、失明することもあります。

遠視の強い人は、隅角が狭いことが多いので、要注意です。

眼科医による隅角検査で、発作が起こりやすいかどうかわかりますし、もし起こりやすい傾向があれば、対処法はあります。

隅角が狭かったり、閉塞していたりすると、禁忌となるお薬や検査があります。

 

さて、40歳以上の20人に1人が罹患しているとされる(多治見疫学調査)緑内障は、日本人の中途失明原因疾患の第1位となっています。

日本人の多くは、眼圧が正常範囲内で隅角が広い(前述の緑内障発作は起こさない)正常眼圧緑内障です。

40歳過ぎたら、緑内障の定期検診をお勧めします。

近視はリスクが高まるので、近視の強い人は40歳以下でも検査をお勧めします。

 

初期の自覚症状はほとんどないため、気付いた時の受診でかなり進行していた!という状態で見つかることもあります。

緑内障の診断技術や治療法の進歩により、早期(自覚症状がない時期)に発見し治療を継続すれば、失明に至る可能性は大幅に減ってきています。

治療はしつつも、視野・視力に自覚症状がないまま一生を送れるように!が、眼科医の目標です。

 

そんな思いの『ライトアップinグリーン運動』です。

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2021.2.16 まぶしいヘッドライト

夜の運転時、ヘッドライトがまぶしい!

そう訴えられる患者さんは少なくありません。

目の病気が原因で、夜間の運転時にまぶしさを感じることはあります。

代表的なのは、白内障です。

多くは加齢によるものですが、外傷やアトピーなどでも起こります。

もともと透明なレンズ(水晶体)が濁ってくる病気で、濁りの程度や部分により入ってくる光の方向が広がり、目の奥(網膜)にきれいな像が映りにくくなります。

 

次に、ドライアイです。

目の表面(角膜)を覆う涙のカバー力が悪いため、表面が凸凹になることで光が散乱しやすくなります。

目の乾きの自覚もあるため、ショボショボします。

また、ある時点(瞬間)の視力は良いのですが、凝視していると目の表面が乾いて視力が低下してくるのも特徴です。

 

緑内障も、眼圧がある程度高くなると、まぶしさを感じます。

また、視野欠損がある場合も、かすむ感じが起こります。

 

コンタクトレンズやメガネが適切な度数でない場合もあります。

特に、中年以降(院長世代です)やデスクワークで、やや遠方視力を落として日常のコンタクトやメガネを使用している場合は、夜間運転用にコンタクトの上からの補正眼鏡や運転に特化した眼鏡をお勧めします。

 

他にも、まぶしくなる病気は色々ありますが、その人に目の病気があるのか、あればどうするか、を診るのが眼科医です。

 

とはいうものの、最近の車のライトはまぶしくなったように思います。

LED化が進んだことも原因のようです。

LEDによってライトの色温度が高くなり白く見えます。

若かりし頃、ブンブン飛ばしていた時代の車は、やや黄色がかったハロゲンランプでした。

 

ハイビーム推奨もまぶしさを感じやすくなっています。

ハイビームにすることで遠方の歩行者などを早期発見でき、事故を回避できる可能性が高まった報告があります。

とはいうものの、ハイビームはまぶしい。

光を直視しないように。

安全な範囲で、視線をわずかに左下に向けることで、まぶしさが緩和した報告もあります。

 

また、対向車が近づいてきたとき、後続車に近づくときにはロービームに切り替えを。

相手にも光を直撃させないように。

 

院長も、若いころは、夜間の通勤(病院からの行き帰り)や夜出発のドライブなど、全然問題なかったのですが、近年は夜間の運転はほとんどしません。

仕事柄1日中眼を酷使。

更にストレスをかけたくないと思うのは、やはり加齢!?

夜は、身体(眼も)も心も明日の活動のために休んで充電する時間です。

高齢者の患者さんの多くが、昼だけの運転にしているのは、無意識の生体防御反応かも。

 

それでも、夜間運転をしないといけない業種の方々もたくさんいます。

夜間は、昼間より眼も神経も疲れやすくなります。

『まぶしい』が気になるようであれば、目の病気の有無も確認をお勧めします。

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2020.12.1 女医なんですけど…

糖尿病の3大合併症は、『神経』『眼』『腎臓』の障害です。

眼科医は、糖尿病の患者さんに眼合併症が出ていないか、出たらどうするかを考えながら診療をしています。

『HbA1C(ヘモグロビンAワンC)はいくつでした?』(糖尿病のコントロールの指標になる値です)

毎回、尋ねます。

即答する人、血液検査の結果や糖尿病手帳を提示する人、『まあまあだね~』『いいんじゃない』『忘れた』『最近採血していない』など色々です。

眼の合併症では、一番は、網膜出血です。

点状の小さな出血が数個から多数に。

白い点状の斑点が数個から多数に、ベターっとしたものに。

悪い血管が生えてきて、破れて出血を繰り返したり、前方にも出血したり…

軽症の場合は、糖尿病のコントロールをしながら、経過観察です。

進行すると、レーザーで網膜を焼いたり、目の中に注射をしたり、大掛かりな手術をすることになります。

重症化すると、悪い血管が茶目にも生えてくるので、眼圧が上がって、緑内障を引き起こします。

また、白内障も進行しやすいです。

 

数年前から通院中の糖尿病のAさん(70代男性)。

院長:『HbA1Cいかがですか?』

Aさん:『○○(値)上がってしまって、薬が追加になりました』

院長:『あれま~!おやつとか結構食べてます?』

Aさん:『おやつは食べないです。ご飯も1日2食だし…』

院長:『アルコールはいかがです?』

Aさん:『まあ、それは毎晩ですね~焼酎をね。内科の先生には、やめろって言われるけど、これが楽しみで生きているからね~』

院長:『そうですか…1日のお楽しみですもんね~どのくらい飲まれますか?』

Aさん:『いつも3杯かな。水割りかお湯割りだけどね』

院長:『いつもより少し薄目に割るとか、たまに1杯減らすとか…は出来そうですかね?』

Aさん:『そうだね~…』

眼の合併症もなく、視力良好なことも確認。

 

Aさん:『ちょっと聞きたいことがあるんですけど…』

院長:『何でしょう?』

Aさんが話し始めたのは、下半身のお話。

ふむふむ。はい、はい。

Aさん:『糖尿病と関係ありますか?』

院長:『糖尿病による神経障害の影響が大だと思いますよ。加えて、加齢も。糖尿病のコントロールをしっかりして。それから泌尿器科かな…。Aさん、こういう話は内科の担当の先生に話したほうがいいですよ。眼科医より』

Aさん:『そうだけど…(病院の)担当医は女医さんなんで、こういう話は…』

院長:『(目が点!)Aさん、私も女医なんですけど…知ってました?顔、見えてますよね?』

Aさん:『…そうなんだよね~こう先生も女医さんなんだけど…違うんだわ。とりあえず、糖尿病治療頑張るわ。聞いてよかった』

Aさん、すっきりした顔で診察室を退出されました。

 

『女医なんだけど…』の後は?

オバサン(内科担当医は若き女医?)だから?

ちゃきちゃき・サバサバしているから?

医師として、かかりつけ医としての経験と信頼がそうさせたなら大変うれしいことです。

 

名前では男性に間違われますが、見た目で間違われたことはありません。

オバサン院長は、性差を超えて頼りにされる、チャーミングな医師を目指しています。

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2020.10.13  10.8の記憶

1994年の、プロ野球優勝争いの中日対巨人。

10月8日、同率首位で迎えた最終戦。

盛り上がる中、勝ったのは巨人。

中日ファンにとっては、忘れられない試合になっているようです。

 

今年は、中日の高木守道監督の追悼試合として、中日対巨人戦が行われました。

ドームでファンへのインタビュー『あなたの10.8の記憶は何ですか?』

試合に絡んだ当時の思い出がそれぞれの人の出来事と重ねて語られていました。

 

院長にとっても、1994年の10.8は忘れることの出来ない日です。

当日、今は無き(ミヤコ地下街だけが今も名を留めています…)都ホテルで結婚式・披露宴でした。

式の準備に、部屋から夫と二人でエレベーターに乗ると、途中で乗り込んできた大柄の男性がいました。

降りて二人になってから『今の、巨人の桑田選手だったよね!?』

『そう?』(結婚式に緊張して他が見えていない院長)

『間違いない。特徴的な顔とほくろだった。今日、先発で出るのかな?』

 

院長は、憧れすべてを実現すべく、各種結婚本を読みつくし、結婚式会場を吟味し、衣装や食事・引き出物・演出など要望を実現すべく東奔西走(ネットがない時代です)。

やっとこの日が来たという緊張感で最高潮。

生まれて初めて、メイクさんにばっちりお化粧をしてもらい、着物やドレスのお色直しをし、出席者に披露。

一生に一度のスターになったのでした。

ケーキ入刀写真は、後日、結婚雑誌にも掲載され、やり切った感!?の結婚式・披露宴となりました。

(その後、どんな結婚式にも、衣装にも興味がなくなってしまった院長です。1回限りで良かった!)

 

その晩は、やたらホテルが賑わしく、お祝いムード。

ホテルは巨人の宿舎で、中日戦での勝利・優勝の興奮が渦巻いていました。

片や優勝の興奮で寝られず、片や結婚式の興奮で寝られず(院長です)…

 

追悼戦は、残念ながら1対7で中日は白星を取れなかったようです。

息子も友達と試合を見に行きました。

しかし、10.8を知らない息子たちにとっては、いつもの試合と変わらなかったことでしょう。

 

伝説の10.8と結婚記念日は同じ。

毎年、10.8の報道がされる度、あの日のエピソードが思い出されます。

同業夫婦はうまくいかない例も多々あります。

お互いの譲歩・妥協・尊敬の元、26年を迎えられたことに感謝です。

 

同年10.8は、当時画期的な緑内障点眼薬の発売記念講演会。

主賓の教授初め医局の眼科医は、白ネクタイを外して結婚式終了後、講演会に出席。

忘れられない緑内障点眼薬です。

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2020.10.6  大手まんぢゅうと緑内障

デパ地下には、地方の銘菓を集めたコーナーがあり、現地へ行かなくても手に入れることができます。

先日、ふらっと立ち寄ると、目につくところに『大手まんぢゅう』が。

よく行くコーナーなのに初めて。

備前岡山の老舗のお饅頭です。

懐かしい~

『大手まんぢゅう』はYさんを思い出させます。

(今でも条件反射で高校時代の remind A of B 構文が出てしまいます…)

 

Yさんは、院長(私)が研修医1年目で担当した緑内障の患者さんです。

もちろん主治医は上にいて、その下に副主治医がいて、その下が研修医という構図です。

当然、主治医がベテランで、以下…となります。

当時、所属眼科は、緑内障で全国的に知られており(今も)、各地から患者さんが診察に来られていました。

Yさんも、その一人。

緑内障を長く患い、かなり進行しており、岡山から治療法(手術)を求めて来院されました。

70代の元美術教師。

絵をたくさん描いておられ受賞歴も何度か。

 

研修医は、担当するといっても、患者さんから勉強させてもらうことがほとんどです。

既往歴や現病歴、今の診断・治療法に至るまで、話を聞きます。

先輩医師のカルテ所見を見ながら、自分でもきちんとした所見がとれるよう、患者さんの目を借りて観察させてもらいます。

ベテランが、さっと診られる所見・病気を、研修医は見つけられないことがほとんどです。

長く診察に時間をかけているから、正確な所見・診断・治療ができるかと言われれば、そうではありません。

患者さんの協力、自身の研鑽・経験があってこそ、診療能力をアップし、やがて時間も短くなります。

診療のポイントが明確にわからない研修医の身では、世間話が途方もなく広がるものの、実は肝心なところが抜けていたりします。

朝の回診前や昼休み、夜など空いた時、土日ももちろん患者さんを訪ね、話をし、診察(の練習)をする研修医です。

そういうわけで、研修医は、患者さんと長い時間を過ごすことになります。

 

『先生、お腹空いてるでしょうから、どうぞ』と病室で差し出されたのが『大手まんぢゅう』

直径3センチくらいの、薄皮に包まれた漉し餡が上品なお饅頭です。

仕事中なので、慌てて二口で食べ終えましたが、小腹が満たされ元気が出ました。

Yさんは、予定通り、手術となりました。

その後、何回か通院されましたが、視力・視野とも、非常に厳しい状態となりました。

 

開業の報告をしたところ、贈られたのが、待合室に飾ってある薔薇の絵です。

『もう自分では描けないし、見えないから、先生の元においてもらえば光栄です』

鬼籍に入られてしまいましたが、待合室の絵は、院長の緑内障の原点の一つでもあります。

 

某大学某科の教授(院長と同年代)と話していた時。

今は主治医が3人制なのだそうです。

経験年数が違っていても、全員が主治医で、連帯責任制とのこと。

昔は、担当は3人でしたが、明らかに立場が違うので、患者さんもそれを踏まえて、話す内容を変えていたのだと思います。

その分、研修医の時に、世間話から必要なことを聞き出す術や、本筋に戻す術、患者さんとの距離の取り方などを学べたのだと思います。

医師の労働時間も大事なことですが、研修医の時にしか出来ないこともたくさんあった…とオバサン院長は思います。

 

お茶を入れ、黒文字を添えて大手まんぢゅう。

上品なお菓子をゆっくり味わえるようになった院長。

研修医からのドタバタも遠い過去のことです。

 

本来なら、今頃は、緑内障学会で九州に出張中の院長。

大手まんぢゅうを傍らに、ZOOMでライブ講演視聴。

WEBだからこそ許されます。

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2020.7.28 世界が窮屈って?

「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた。」

 

休日の朝、スマホで朗読小説。

出だしのフレーズです。

え?どういうこと?

BGMくらいのつもりで聴き始めたのに、急に頭がしゃきっとしてしまった院長です。

 

 

主人公の女性は、朝目覚めて、部屋を見渡すと、「テレビ画面がやけに小さい」

「テレビを含む視界全体がぎゅっと圧縮されてしまったような感じだ」

何の病気?

小説のストーリーもですが、主人公の病気の描写が気になり、朗読の声を聞き逃さないように集中します。

 

 

「階段を降りようとした。その瞬間。がくっと音がして、あっというまに踊り場まで背中でずり落ちてしまった」

下方視野が相当欠損しているのね。

 

主人公は、NYのメトロポリタン美術館の学芸員です。

「なんだろう。朝からもう何度も壁にぶつかりそうになっている。階段を踏み外したり、壁にぶつかりそうになったり」

階段踏み外しは、下方視野欠損(しかも両眼、重度の)だけど、壁にぶつかるというのは、急激な両眼の視力低下も起こったのだろうか?

 

「自分の周囲のものが、いっせいにじぶんにむかって縮こまってくるような」

これは、求心性視野狭窄(わずか中心だけが見えている)のこと?

 

「視野が欠けている、っていうか。ちゃんと見えていない感じで」

「今朝起きたときから、なんだかおかしくて」

急性発症と考えていいよね。

 

急性発症・視野狭窄(特に下方視野欠損と求心性視野狭窄)

何?朝のくつろぎの時間のはずが、眼科医モードに切り替わっています。

 

診断名は「glaucoma」(グラウコーマ)

 

えー!?グラ(眼科医は略して呼びます)だったの?

緑内障のことです。

約30年眼科医として、特に緑内障には力を入れて診療していますが、小説のような症状が一度に急に出ることはありません。

世界(視野)が窮屈になったという表現も初耳。

 

現代では、緑内障は早期に発見(人間ドッグや他のことで眼科受診の際)されることが多くなり、多くは初期の段階です。

慢性で徐々に進行していく病気ですが、主人公のようにある日まで自覚症状がなく、末期になるまで受診しないことは、まずあり得ません。

初期はもちろん、それ以降のステージでも点眼治療をすれば、進行を抑えることはできます。

点眼治療がうまくいかない場合は、手術をすることもありますが、術式も色々開発され、その成績もかなり良くなっています。

 

 

「ほとんど手がつけられないほど進行してしまっていること。進行を遅らせるための緊急手術を受け、うまくいけばしばらくはしのげる。けれど、完治することはない。いずれにしても、近い将来、視力を失うだろう」と、主人公は眼科医から告げられます。

これも、小説ならではの、眼科医の説明だろうと思います。

 

主人公は、眼科で知り合った弱視の少女を抱き上げて、「ギャラリーの中央へ歩んでいった」

これほど、末期で、階段も転げるような主人公が、子供を抱っこして歩けるのか?

今までの主人公の病状からは考えにくい行動です。

 

揚げ足を取るわけではないけれども、眼科医からすると、「緑内障」に関しては少々残念な描写でした。

 

 

でも、ひとつ新しい絵に出会えました。

『盲人の食事』

ピカソの青の時代。

1903年、22歳の作品です。

目の不自由な一人の男の横顔。

右手で水差しを探り当てた様子。

「どんな障害があろうと、かすかな光を求めて生きようとする、人間の力」

 

その日のうちに、本で購入し読み直しました。

群青 原田マハ

「」は小説より抜粋です。

 

 

 

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2020.7.14 薬飲んでいいの?

時々、患者さんや薬局から尋ねられます。

『緑内障でも、このお薬飲んで大丈夫ですか?』

 

『緑内障』は、眼圧により目の神経が圧迫され、視神経の束が薄くなったり細くなったりして、視野の狭窄や欠損が起こる病気です。

多治見市で実施された調査では、40歳以上の17人に1人が『緑内障』に罹患している結果となりました(2012)。

年数が経ち、ますます高齢化しているので、罹患者数はさらに増加しています。

『緑内障』は早期発見が大切で、しかも、強度近視や家族歴ありなどではリスクが高まるため、40歳以上では、眼科の検診をお勧めしています。

 

さて、他科の薬には、かなり多岐にわたり『緑内障禁忌(使用してはいけない)』の注意書きを見ます。

精神科系の薬

抗てんかん薬

抗パーキンソン薬

循環器系の薬

排尿障害治療の薬

風邪薬、咳止め、かゆみ止め、酔い止めなど市販の薬にも表記されています。

『緑内障』と診断もしくは疑いと聞くと、心配になって当然です。

 

緑内障禁忌とされている薬は、散瞳(黒目が大きくなる)を引き起こします。

散瞳により『隅角・ぐうかく』がより狭まり、眼圧の急上昇が起こるタイプは『緑内障発作』を起こします。

眼圧が高い状態が続くと、視神経が一気に弱り、急激な緑内障の進行となります。

内服薬だけでなく、注意が必要な点眼薬もあります。

 

どのタイプの『緑内障』で禁忌なのか?

鍵は、『隅角』が広いか狭いか。

目の中の水(房水・ぼうすい)は、毛様体という目の中間部で作られ、虹彩(茶目)の前面の端っこから排出されます。

前面の端っこのところは、角度がついており(『隅角』)、この角度が広いか狭いかでタイプ分けされます。

広ければ『開放隅角』

狭ければ『閉塞隅角』もしくは『狭隅角』

無治療の『閉塞隅角』『狭隅角』だと、緑内障禁忌の薬は使用出来ません。

 

眼科では、通常の診療でも、必ず『前房・ぜんぼう』(房水がたまっているお部屋)の深さを見ます。

狭そうであれば、隅角のチェックもします。

閉塞隅角や狭隅角の場合は、緑内障発作予防にレーザーをしたり、中高年以降では白内障手術をします。

そうすれば、緑内障禁忌の薬からも解放されます。

 

ひとくくりに『緑内障』といっても、大きく『開放隅角緑内障』と『閉塞隅角緑内障』に分かれます。

さらに、『開放隅角緑内障』には、日本人に一番多い『正常眼圧緑内障』が含まれます。

『緑内障』診断において『隅角検査』は非常に大切で、診断・治療開始において、必ず実施しています。

眼科にかかって、緑内障禁忌の薬についての説明を受けてなければ、恐らく大丈夫だと思います(個々に対応してください)。

元々視力の良い、遠視の高齢女性は、狭隅角・閉塞隅角のことがよくあります(眼科に縁がないので見つかりにくい)。

 

『前立腺肥大で、この薬飲んでもいいかね~?』

『いいですよ』

『うつ病で出されたこの薬、大丈夫ですか?』

『大丈夫ですよ』

一人、一人患者さんを診て答えます。

心配なことは、何でもお尋ねください。

 

半年前に緑内障(正常眼圧緑内障)診断し、点眼治療中の40代男性Aさん。

すごく体が大きくて、がっちりした体格です。

診療終了後『一つ、質問していいですか?』

『はい、どうぞ』

『緑内障ですが、これ飲んでもいいですか?』

見せられたのは、市販の酔い止め薬。

『全然問題ないですよ』と、開放隅角であることを再度説明。

『よかった~。これで、安心して長距離バス乗れます。小さい時から、これないとダメなんで…』

Aさんがくまのプーさんのように可愛らしく見えました。

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