2020.12.22 茶目が濁る
先日某新聞の投稿欄。
娘に目が白いと指摘され、眼科受診したが、『ロウジンカン』と言われ、加齢による心配のないものと説明された。
『ロウジンカン』とは『老人環』と書き、加齢(大体60歳以上)により、角膜(茶目)の周囲に沿って丸く円状に出てくる白い濁りです。。
何かの病気では?と心配されて受診されます。
自分では気づいておらず(鏡を見ない?)、家族に指摘された男性がほとんどです。
加齢により、脂質の沈着が起こった現象です。
角膜の下方から始まり、上方にも起こり始め、上下の濁りが癒合すると白い円状の濁りとなります。
女性より男性に多く見られます。
眼障害は起こさないので、治療は不要です。
同じ角膜の濁りでも、『角膜に白く濁る点がある』と若年者が受診された時は、若いから放置…では済まない『カタル性角膜潰瘍』があります。
コンタクトレンズ使用者が多く、濁りの近くの結膜(白目)にも充血を伴っていることも。
細菌培養をすると、黄色ブドウ球菌が検出されることもありますが、検出されなくてもブドウ球菌毒素による反応により起こっていると考えられています。
長時間の装用や、レンズの使用期限延長、レンズの洗浄不足(こすり洗いせず)、ケースの定期的な交換なしの場合に起こりやすくなります。
治療はしますが、充血がなくなっても、混濁はなかなか消退しません。
ただ多くの場合、視力は出るので、治療継続が大切です。
怖いのは、緑膿菌(りょくのうきん)とアカントアメーバ。
どちらも難治性の角膜の病気です。
レンズケースを媒介として起こることがとても多いので、2週間や1か月タイプ・通年型は要注意です。
アカントアメーバは、専門の病院を紹介しても、治癒するまでの期間は長く、辛うじて視力がやや戻った…くらいの回復も。
緑膿菌も、1~2日で角膜を破り溶かしてしまうくらいの急速な進行を遂げます。
緑膿菌による角膜潰瘍で、今でも記憶にあるのは、研修医時代の担当患者さんです。
夕方、地方の開業医さんから連絡があって、時間外で患者さんが大学病院に到着したのは、午後7時前。
70代の男性Cさんでした。
一昨日、畑作業中に何かが入ったような気がしたけれど、翌日は様子見。
おかしいな、と思って翌々日20キロ先の眼科開業医を受診。
重篤な角膜の状態ということで、大学病院に紹介。
患者さんは、40キロの距離を奥さんと一緒に来られました。
診察した眼は衝撃的でした。
角膜穿孔(かくまくせんこう)を初めてみました。
角膜が溶けて内容物が緑色のどろどろしたものと融解して出てきていました。
細菌検査では『緑膿菌』が。
強い抗生物質の点滴と点眼で数日治療を続けましたが、改善せず。
遂には、眼球摘出術を行うこととなりました。
2度と忘れられない症例です。
数年後、大学病院から55キロ離れた病院へ赴任。
行く途中、Cさんの村があります。
まだ研修医だった院長(私)は、治療も手術もただ見守るしかなかったけれど、村を通過するたび、Cさんの顔と眼はいつも浮かびました。
眼科開業医のない地方の病院赴任により、患者さんを迅速に診察・判断することを求められ、眼科医として成長させてもらいました。
雪に埋もれた山の中の集落を思い出します。